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last updated 1997/07/10

第56話(全130話)

朝食(1/2)




6 朝食

 ドンッと背中を蹴られるような衝撃があった。
 ビックリしてピートは目を醒ます。視覚モニターを半ば無意識にオンにすると、強烈な朝陽
の光が飛び込んできた。夜がスコールのように降ってくるのがテオの夕暮れだとすれば、テオ
の朝はまるで洪水のようにドドッと膨大な光の迸りで襲いかかってくる。
 ピートはマリカのほうに目をやった。視覚モニターをオフに出来ない彼女は、この陽射しの
中ではとても眠ってなどいられないだろうと思った。案の定、昨夜体を横たえた干し草の上に
マリカの姿はなかった。振り向くと、フィンフィンの姿もない。ピートは驚いて洞窟の中を見
回す。ワーターもいなかった。いたのはパピロだけだ。どうやらマスターの背中を蹴り飛ばし
たのはこのパピロのようだ。
「すごいな」
 パピロは言った。
「おいら、寝坊すけのロボットっていうのははじめて見たよ」
 早起きのロボットなら見たことあるのか、というと、じつはパピロは、そういうものも見た
ことはなかった。第一、彼はロボットはおろか、機械というものだって、はじめて目にしてい
るのだ。
「みんなは? マリカはどこへ行ったの?」
 まさか置いてけぼりをくってしまったんだろうか。ピートの胸を不安が駆け抜けて行く。ぼ
くが三歳児みたいな質問ばかり繰り返すから、マリカもフィンフィンもうんざりして、ぼくを
ここに置き去ることに決めたのだろうか? うろたえて洞窟からとにかく走り出ようとするピ
ートに、パピロは言う。
「お前さんは機械だから、たぶん付き合わないだろうって、マリカとやらは思ったんじゃない
かな」
「機械だから、これ以上は旅に付き合わせられないって、マリカはそう言ったの?」
 言うピートを、パピロは興味深そうにみつめる。
「すごいな」
「何が」
「おいら、早合点する機械を見るのはこれがはじめてさ」
「早合点?」
「よくは知らないけどさ、機械ってのは何も食べないんだろ?」
「え? うん」ピート、パピロが何を言いたいのかわからないままにうなずく。「食べたり飲
んだりはしないよ。ぼくは太陽電池で動いてるんだ」
「ということはこんなに眩しい陽射しを浴びてるんだから、お前さんはいまもせっせと太陽の
光を食べてるってことだよね。すごいね」
 パピロは感心して、マスターのお腹の辺りをバンッと叩く。
「何が言いたいの?」ジれてピートは訊いた。
「だからさ、やっぱり機械は付き合う必要はないわけだよ」
「何に」
「朝ごはん」
「朝ごはん? 朝食のこと?」
「朝ごはんが夕食のことだったら、おいらはひっくり返るな」
 ピートは大きく息をつく。
「みんな、朝ごはんを食べに行ったって、そういうことなんだね?」
「さっきからそう言ってるじゃないか。ロボットって案外、飲み込みが悪いんだね。いいかい
、ピート。機械とは違っておいらたちはさ、三度三度ご飯を食べないと体がもたないんだよ。
聞けばマリカたちは、昨日は昼にちょこっと木の実をつまんだだけで、夕食は抜きだったって
話じゃないか。なら朝食ぐらいちゃんと食べなきゃ旅は続けられないよ。機械の御身分なら寝
坊しててもいいんだろうけどさ、下践なおいらたち生き物は食べ物をほかの連中に取られない
ように早起きして、朝から走り回らなきゃならないんだよ」
 フン、だ。と何故かパピロは腹を立てたようにそっぽを向いた。どうして腹を立ててるのか
はわからなかったが、ピートはもうパピロの言動に理由など求めないことに決めた。パピロは
何でもかんでも自分で納得して、勝手に怒ったり、感心したりしてるだけだ。
「どこに行ったの?」
「さぁね。おいらは知らない。おいらは干し草を食べればお腹いっぱいだから、外を走り回っ
たりしないんだ。すごいでしよ」
 パピロに応えず、ピートは洞窟から走り出てみた。
 カーン! という金属質の音が岩山の向こうから聞こえている。マリカの剣の音だ。マスタ
ーの音質識別センサーがそう判断した。
 ピートは音のするほうへ駆け出した。マスターは優秀な聴覚センサーを持っていたから、離
れた所からでも、遠くで剣をふるっているマリカの息遣いまで聞き分けることができた。
 辺りは真っ白な岩だけが露出している殺風景このうえない世界だった。前にテレビで見たこ
とのある月の表面に似ている。月世界にもし青空があったなら、たぶんこの景色とそっくりだ
ろう。

(つづく)




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